モーリシャス沖座礁事故に関する解説
どうも、ドチです🐱
今回は、昨今話題の「モーリシャス沖座礁事故」に関して解説していきたいと思います。各種報道では、環境問題に焦点が当てられていますが、海上貿易実務に携わった経験がある者として、本記事では以下の様な疑問に答えていこうと思います。
商船三井の副社長が謝罪する事態に追い込まれている一方、「船主」として長鋪汽船(ながしききせん)という名前が報じられているけど、各関係当事者の役割や責任の所在がどうなってるのかイマイチ分からない・・・。
座礁した貨物船「わかしお」ってニュースでは「パナマ船籍」とか、「日本貨物船」とか色々な表現がなされてるけど、一体どこの誰の船なの?
ちなみに、船関連のニュースでは頻繁に「パナマ船籍」って聞くけど、どうしてパナマが多いの?
では、早速見ていきましょう。
目次
- 事故の概要
- 本座礁及び重油流出事故に関する関係当事者の役割と責任の所在
- パナマ船籍とは?なぜパナマが多い?
①事故の概要は?
- 中国での貨物の荷下ろしを終え、ブラジルに向かう途中であった大型貨物船「わかしお」が、7月25日19時25分に航海途中のモーリシャス沖にて座礁。
- 8月6日朝、座礁により破損した燃料タンク内の重油1,000トン超が海上流出し、モーリシャスが「環境非常事態」を宣言。フランスや国連に支援を要請するまでに問題が大きくなっている。
- 尚、8月11日現在、まだ他の燃料タンク2基に2,000トン超の重油が残っており、同国首相は「船体に複数の亀裂が確認されており、非常に深刻な事態に直面している。最悪のシナリオに備えるべきで、船体がいずれ崩壊することは明白だ」と語っている。
②関係当事者の役割と責任の所在は?
下記の図を用いて、簡潔な例を挙げて説明します。
・まず、上記⚓️マーク(=船主)が「長鋪汽船」であり、⛴マーク(=運航者、オペレーター)が「商船三井」に当たる。つまり、「船の所有者」は長鋪汽船となる。
・長鋪汽船と商船三井の関係は、簡単に言えば、タクシー会社(=長鋪汽船)と運転手(=商船三井)。つまり、タクシー会社の所有物であるタクシーを、運転手が一定期間借り、そのタクシーを活用して乗客(=商社等の「荷主(上図、上段の真ん中)」が輸送を依頼する貨物)にスペース(=席)を一定時間貸し、運賃をもらう、というのがオペレーターのビジネスモデル。
・今回の事故の責任の所在は、長鋪汽船と商船三井の間で取り交わす「用船契約書(ようせんけいやくしょ)」に記載の条件に基づいて決まるが、事故原因が特定されていない現状、何とも言えない。
・ただし、一般的な用船契約書であれば、(ものすごく簡潔に言えば、)運航上の瑕疵(かし=不具合。例:危険な航路を選択するというミス、悪天候にも関わらず運航するという判断を行なうミス等)による事故での損害補償はオペレーターの責任。他方、船自体の瑕疵(例:貸し出す前の状態に船体のどこか不備があった等)であれば船主の責任となる。
・報じられている「本来ならば、島から沖合16 ~32kmを航行していたはず。だが、座礁した地点は沖合1.5km」というのが事実であれば、悪天候での運航を判断した?ことによるオペレーターの責任、となる可能性が高いと言え得る。
・また、「重油流出に関しては、タンクが脆弱だったからでは?」という意見も考え得る。しかし、普通、貨物船は「ダブルハル構造(下図ご参照)」となっており、わかしおも正常な造り/メンテの状況であれば、余程の衝撃でなければタンク内の液漏れは発生しないことになる(まあ、事故写真を見る限り、「余程」であることは一目瞭然ではある)。
③パナマ船籍だけど日本貨物船ってどういうこと?
・まず、これまで説明してきた通り、船主及びオペレーターが日本の企業であることから、「日本貨物船」と報道されているものと言って良いはず。
・ただし、本船の船籍がパナマ船籍であることから、少し誤解を招いてしまいがちになる。
④そもそも船籍って何?どうしてパナマ船籍の船が良くニュースに出る?
・船は一定の大きさ以上となると、船籍の登録が義務付けられており、船籍を持たない船舶が国境を越えて往来することが出来ないこととなっている。したがい、ほぼ全ての外航貨物船(海外を往来する貨物船)は船籍を登録する。
・よく聞く「パナマ船籍」が多い理由の1つは、船舶関連の税金を安く済ませられること。同国では、簡単にペーパーカンパニーを作ることが出来、物理的に事務所等を構える必要がなく、船籍だけを取得することを可能にしている。
・また、もう1つの主な理由は船員費。先進海運国(日本含む)では、原則、自国船籍の船には自国の船員(→正確には自国が承認するライセンスを持った船員)の乗船が義務付けられており、その場合は、船員に対して高い賃金を払う必要がある。
・そうなると、運航コストを逼迫し、競争力のある運賃を荷主に提示出来なくなる。他方、パナマ船籍では先進国船員に比べて安価なフィリピン、ベトナム、ミャンマーといったあたりの国の船員を乗船させることが可能。
・尚、こういったパナマの様な国を便宜置籍国(べんぎちせきこく)と言い、世界中の船舶を登録させることを「産業」としている(他、リベリア等)。
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以上です。
一日も早く事態が終息することを願います🙏