【ケーススタディ】商社の物流商売を体験してみよう!~リスクリターンとは?~

ケーススタディ 仕事内容 総合商社

どうも、ドチです🐱

突然ですが、あなたは総合商社の物流担当です。

今、こんな状況にいらっしゃるものと想像して下さい⬇️

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あなたは、トレーディング事業メインの課で、3つあるチーム(=A, B, C)の1つ、商材Aを扱うAチームに所属している3年目の総合職。現在は年度末が近づく2月下旬、Aチームの業績は、2月末を迎える時点で予算(=期首に立てた目標利益)の数字にあと1千万円(以下、10百万円と表記)足りない💦、という状況。

尚、B・C両チームはちょうど予算当落線上。つまり、課全体としては10百万円の予算未達という見通し。。。う〜む。。
ただ、Aチームは、3月半ばに、商材Aを日本のメーカー(J)から買い、タイの需要家(T)に販売する契約の船積みを1船控えており、それで+5百万円を見込む。契約の諸条件&商売背景は以下の通り。

  • 輸送ルート:積@横浜港→揚@バンコク港
  • 購入数量:1万トン
  • 販売数量:8千-1万トンの間ならOK。ただし、T社希望は1万トン
  • 納期:船は3月中にバンコクへ要到着
  • 備考:T社はウチの20年来の顧客。課の最重要取引先の1社。J社としてもT社の長年にわたる安定購入に満足。

ただ、これに加えて、何とか3月中に+5百万円の追加利益を狙わなければ予算未達・・・という状況💦

そんな中、以前、国際会議で一度だけ会話したことのある、べトナムの需要家V(=中小企業。Aを原料として製品を作るメーカー)から、突然のメールを受領。

👲📩「Aの在庫切れそうで、3月中の船積で2千トン持ってきてほしい。価格は高くても良いから💦」 

キターー‼️🤑!!俺はなんてラッキーなんだ✨予定する1万トンの内、2千トンを、バンコクに行く途中のホーチミンで揚げ、V社に販売(=8千トンはT社へ販売)すれば、なんと+10百万円の追加利益の算段💰✨

あなた(👦)は興奮する中、早速、課長(👨‍🦰)へV社へのOfferの許可を求めに相談。

すると、、

👨‍🦰「・・・ダメだ🙅‍♂️
👦(え・・!?何で!?!?!?!?!挑戦を重んじるとか言って、なんて保守的な会社だよ・・😞

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突然失礼致しました。今回はね、ちょっと趣向を変えて「読者参加型」の記事に!と思いまして😄🐱

本題に戻りましょうか。なぜ課長はあなたにV社と契約することへの許可を出さなかったのでしょうか?課長の頭の中はどういう思考回路なのでしょうか?

今回、このケーススタディを通じて、①物流商売のリスクリターン、②リスクテイクする上での判断の根拠、それらを踏まえた上で、③担当者としてのあなたが取るべき対応、の3点を解説していこうと思います。

本スタディを通して、総合商社の物流商売のリアルをお伝え出来ると思います(物流、超超楽しいっすよん🎵)。それが本記事の目的です。

主な想定読者を、1-3年目の全若手商社パーソン向けとしてます(学生さんにとっても、商社の仕事のイメージを膨らませる内容だと思います。ちょっと難解かもだけど、、💦)✨

それでは早速見ていきましょう🚀(記事の長さ:長め(6分程度🙇‍♂️))

目次

  1. 物流商売のリスクリターン
  2. 予算の概念とリスクテイクを判断する根拠
  3. 本ケースにおいてあなたが取るべき対応は?

1. 物流商売のリスクリターン

さあ、先程のストーリーに戻りましょうか。

今回の状況を整理すると、

Case1:1万トン全量を予定通りT社に販売すれば+5百万円(予算-5百万円)
Case2:T社に8千トン(+4百万円)、V社に2千トン※(+11百万円)を販売すれば+15百万円(予算+5百万円)
→Case2のリターンはCase1 + 10百万円

※ややこしい設定を省く為、横浜→ホーチミン→バンコクと、ホーチミン経由になることでの船の追加輸送費はゼロとする。

ということですね。ではCase2を選択するのが当たり前では??・・・なのに、課長から反対された理由って何でしょうね??

改めて、本記事冒頭部分の状況説明に目を戻すと、あなたは、V社には、国際会議で1度だけしか会話したことない、という話でしたね。しかも、中小企業とのこと。しかもしかも、在庫切れを起こしそうで超困ってるというのこと。

・・・ここ、本当に代金払ってくれるのでしょうか?海外の中小企業の財務状態は期待出来ないでしょうし、ベトナム国内で原料を調達出来ない程周りのメーカーから取引拒否を喰らっているのかもしれません。

つまり、代金回収出来ないリスクが存在する訳ですね。その場合の損益はどうなるのでしょうか?単純に11百万円が回収出来ないから、+4百万円のみ、と言えるでしょうか?

もちろん、言えませんよね🙅‍♂️2千トン分は、メーカーからの購入代金分すら回収出来なくなるわけですから、大赤字となるはずです。

例えば、商社の物流商売は、一般的に利益率(=利益/売上)5%程あれば良いとされてます。今回、V社は高く買ってくれるとのことですけど、せいぜい10と仮定しましょうか。

つまり、売上は、当初想定した利益の10倍の110百万円となるわけであり、これが全額回収出来ない場合は、106百万円{= 4百万円(T社分の利益) – 110百万円(V社分の未回収額)}の赤字です。

さて長々と説明しましたが、このCase2の商売を実行しようとした時のリスクリターンは、

  • リスク:-106百万円(V社から代金回収出来なかった場合)
  • リターン:+15百万円(出来た場合)

と整理されます。これだけ見ても、、一度も取引したことない海外の中小企業に販売すべしでないことは明らかですよね?

この様に、商社の物流商売って少ない利ザヤ{=売上-(仕入+輸送費)}をたくさん積み上げる、薄利多売のビジネスモデルなのですが、11回の代金回収リスクってものすごく大きいんですよ。なので課長は反対したのですね。

さて、ちなみに、課長が反対した理由ってこれだけ??どのみち、Case1を選択せざるを得ないとしても、このまま行けばAチーム(引いては課全体)は5百万円の予算未達ですけど、、何かすべきではないのでしょうか?🤔

2. 予算の概念とリスクテイクを判断する根拠

ちょっと上記の議論から離れて、会社の「予算」という概念を説明します。

予算は、各チームや課に限らず、その上の組織である部、本部、そして会社全体で設定された数字があります。会社として予算達成がマストであるのは、株主の利益を最大化するに他なりません。予算未達であれば、

投資家👩👱‍♂️「おいおい、XX商事、予算未達かよ。。株売ろうかな」

となり、株価(=株主の資産)が下がったり、株主に還元する配当の額も下がったりします。

そういう状況を防ぐべく、株主らは、社長を始めとする経営陣に常にプレッシャーをかけており、その圧力が、会社の構成単位である各本部→各部→各課に降りてくるんですね。なので、各々の組織長は、期首に策定した予算を是が非でも達成しなければならないわけです。

ただし、策定した予算を無視して、稼ぐだけ稼ぐというのが、株式会社としてベストな形なのでしょうか?実は、ややこしいのですが、それは一概にYesとは言い難いのですね💦

実は、会社の業績で一番大事なのは「安定」なのですね。年度毎に、大幅に上回る→未達→大幅に上回る→未達、というサイクルを繰り返す企業より、(少し上回る程度でも)毎期達成という安定感が大事なのです。それが株主からの信頼に繋がるからです。

さて、ここまで説明した上で、ようやく「あなた」の課の話に戻りましょう。

課長は、あなたのCase1&2の話を聞き、以下の様に思ったわけですね。

👨‍🦰(V社に売れたら、課全体でも予算達成だけど、、代金回収出来なかったら約1億円(=約100百万円)もビハインドだろ??しかも、良く知りもしないV社のホーチミン港の荷揚げスペースの整備が不十分で、1ヶ月間揚げられず、船が待ちぼうけ喰らったら?T社に3月中に船持ってけなかったら契約違反(*)だし、その場合、T社が8千トンの受け取りを拒否し、8千トン分も代金回収出来なくなるリスクさえ出てくる。そうなりゃ計5億円程の損が出て、即刻クビだ俺は。。・・・もちろん、ベトナムに商材Aの新しい顧客を持てるのは、中長期的に考えれば魅力的だけど、、-5億円は無理だ。Case1でいこう。何とかB or Cチームで3月に+5百万円稼ぐことを考えよう!(*)冒頭文の契約の諸条件を見返してみて下さい⬆️

・・・Aチーム担当者のあなたより、全然深く思考を巡らせていたのですね。また、立場上、課全体の予算を考えていたわけであり、B or Cでの追加利益を狙う、という選択肢が課長にはあったわけです。

3. 本ケースにおいてあなたが取るべき対応は?

さあ、ではAチームのあなたは、B or Cチームが3月中に何とか5百万円の追加利益を生み出すことを、隣で指をくわえて見ているだけで良いのでしょうか?

ここからが物流マンの腕の見せ所な訳です!!

(ここまででも情報量が多かったですが、以下は頭をスッキリさせて読んでいって下さいね!)

まず、V社の代金回収リスクって小さくすることは出来ないのでしょうか

例えば、

  1. 横浜港で船に貨物を積む前に先に支払う契約を結ぶ
  2. V社ではなく、ウチとV社の間にベトナム全土にネットワークを持つローカル大手商社L社に入ってもらう(→ウチは、V社より財務体質が良いL社がウチの販売先になり、L社から代金を回収することでリスクを減らせる。尚、L社はV社に販売)
  3. V社の製品Dを安く購入する権利を契約条件に入れ、商材Aの代金を払わなかったらウチもDの購入代金を払わない(相殺条件)

とかとか。いくらでも方法はあるわけです。仮に、(一番現実的な選択肢である)2.を採用したとしましょうか。

間にL社が入ることにより、ウチが取れる利益は減りますよね。ただ、元々、Case2では15百万円の利益(=目標とする予算+5百万円)だったわけですから、最悪、利益を5百万円減らしてでもL社に入ってもらった方が良いわけですね。5百万円与えれば、L社も入るでしょう(ウチよりも、物理的にV社の近くにおり、元々の代金回収リスクはウチより小さい)。

この様に、リスクを減らせばリターンも減るわけですね。

さて、気にすることってそれだけです??ちょっとだけ考えてみて下さい。

・・・分かりました?そうですね、ホーチミン港で船が待ちぼうけを喰らい、3月中にバンコクに到着せず、T社に購入を断られるリスクがありましたよね?これはどう回避します?

例えば、

  • L社との契約に、「荷揚げスペースの整備不十分との理由で、船がホーチミン港でXX日以上待つことになる場合、この販売契約を破棄出来る」という条件を入れる、とか
  • 当社が揚港を自由に選択出来る(北部の有名なハイフォン港での荷揚げもOKとする等)

とでもしておけば、待ちぼうけリスクもグンっと減らせるでしょう。

対応すべきことはそれだけですか?他には?

こういう時って、①全関係者の立場に立って考えること、②中長期的な利益を考えること、の2点が鉄則なのです。それを考慮すると、例えば、

  • J社には、「一部ベトナム新規顧客向けとして売る可能性あり」って事前に言っておかなくて良い??→黙って実行すれば、チャーターする船会社経由で、他商社にウチのベトナム向け販売情報が漏れ、他商社からJ社に変な形で伝わり、J社の信頼を一気に失い、来期以降の契約打ち切り、となり得るリスクがある。
  • また、1万トンを希望する最重要顧客のT社には、申し訳ないが、契約上最小数量の8千トンになる可能性をあらかじめ告げておく必要はないか?→T社としては、その情報を知るのが早ければ早い程、地元のメーカー等から不足数量分を前広に発注しておけるから助かる(=在庫切れリスクを減らせる)。ずっと1万トンと思っており、船が来ていきなり8千トンだったら、、2千トンの調達に焦ることになる。

とかとか。目先の利益だけでなく、こういう全関係者に配慮が全て出来て、初めてデキる物流マンになるわけですね✨

さあ、これでようやく、Case2で進める許可を課長から取れそうですね。利益は当初想定より5百万円減りましたが、無事、予算達成となりそうです!🐱

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いかがでしたでしょうか❓ちょっと情報量が多かったでしょうかね💦

ただ、本番に比べたらかなりシンプルなケースになってます。実際のオフィスでは緊迫した中で「どういう案で、誰にどういう順番でどう話す?」という議論をしまくっています。本当に毎日毎日これです。

慣れてくると、ピンチになればなるほどアドレナリンが出てくるんですよね🔥

ご質問等あれば、本ブログのお問い合わせフォーム、Peing匿名質問箱、TwitterのDM等でお知らせ頂けるとありがたいです✨反応があると超嬉しいもんです✨

最後に。

またこんな時間(=AM02:30)か・・うぅ🐱😞

P.S.

平日は毎日Twitter上で総合商社関連Newsをまとめて呟いてます。よかったら見てみてね👁 → @Dochikun1